PJの現場から(2) – Leader機能の強化: On/Off両面でのコミュニケーション&「政治」の利用
PJの現場から(2)
秋の台風シーズンが少し早めに始まったようで、台風13号&15号で西も東も大荒れでしたね。
さて、前回からシリーズでお伝えしている「PJの現場から」第2回目です。
前回はPJチームの置かれている状況をざっくりとお伝えしました。
(前回メルマガはこちら)
今回はPJチームの各機能不全に、どのように取り組んだのか、より具体的にお伝えします。
【前回のおさらい】
PJが何度も方針転換して「やらされ感」が蔓延した結果、「言われたことだけ」を黙々とやる姿勢のメンバーだらけの、最早「チーム」と呼べない泥沼の状態でPJが再スタート。
この状況を打破すべく「プラットフォーム」チームが招集され、PJチームの立て直しに着手することになりました。
【Leader機能の不全を表す2つのフレーズ】
PJチーム各所の機能不全に、同時並行的に手を打っていくことになるのですが、まずはLeader機能に何が生じていたのか見てみましょう。
これまでに経験したことのない大規模なPJに取り組むにあたり、社内・外の人材を募集・結集してPJチームを組成しました。
それ自体は良いことなのですが、当然ながら様々な異なるバックグラウンドをもったメンバーを「チーム」として統合するにはしっかりとしたリーダーシップが不可欠です。
しかし残念ながらこのチームでは十分に機能していませんでした。
そのことを示す、リーダー層の2つの象徴的なフレーズがあります。
- 「なるほど、ではどうしたら良いか提案を持ってきてくれますか?」
- 「○○してほしいと何度も言っているんだけどな・・・」
どちらも一見すると「メンバーの自主性・主体性を尊重している」「必要な指示をしっかりと下している」ということの表れのようにも聞こえますが、相対しているメンバーは心の中は・・・。
- 「だからこうして複数案を持ってきていて、あとは意思決定・行動をして欲しいのに・・・」
- 「会議中につぶやいているだけ。『指示』なら『いつまでに、どうするのか』言ってくれないと、他の作業で忙しいのに対応なんてできないよ・・・」
つまり「コミュニケーションが成立していない」状態が放置されていたのです。
なぜでしょう?
【コミュニケーション不全を生む「暗黙の行動様式」】
前述の通り、このチームは社内・外から集められた人材で構成されていたのですが、様々な経緯が重なって、特にPJ責任者・リーダーとなる層はグループ外のA社から1年以内に招聘した人材で固められていました。
このことをリーダー層もよく認識していたため、「外様 対 プロパー」という対立構図を招かないよう、あまり強い調子で明確な指示を出すことを躊躇していた部分があったのです。
また、招聘元のA社が比較的成熟した組織であり、「上司たるもの部下の自主性を引き出し尊重するため、トップダウン/マイクロマネジメントは控え、ボトムアップの意見・提案を待つべき」というカルチャーがあったことも影響していたでしょう。
しかしそもそもこの会社・PJチームでは大規模PJの実施経験が少なく、トップダウンの指示なしに現場が自主的に動けるほどの成熟度は備わっていなかったのです。(だからこそ外部のA社からリーダー層が招聘されたのです)
それぞれに言い分もあるでしょうが、課題としては「どちらの言っていることが正しいか」ではなく、コミュニケーションが成立していないせいで、「双方に心理的な不満が蓄積し続けていた」ことと、「とにかくタスクが進んでいなかった」ことです。
【対策:On/Off両面でのコミュニケーション改善】
そこで実施した対策は、基本的にそこまで奇をてらったものではありません。
「On」でのコミュニケーション改善
まずは業務中のコミュニケーションについて、
「(細かく言わなくても後は考えてくれるよね)」
「(具体的に指示されない限り、業務指示としての優先度は上げなくてもいいよね)」
と、互いの「お見合い」状態をどうにか解消する必要がありました。
しかしコミュニケーションスタイルは、多分に「慣習」によって裏打ちされているため、そうそう簡単には変わりません。そこで、PMO*メンバーに、リーダー層の秘書的な役割を担ってもらい、個別打合せに同席してもらうことにしました。
*PJ管理オフィス:一般的に、PJチーム全体の進捗管理や課題管理を担うチーム
そして、「今のご指摘はこういう理解で良いですか?」「皆さんこのことは指示として認識いただけましたか?」と確認し、フォローする役割を担ってもらいました。
その結果「いや、そんなことを指示されても対応しきれません、何を優先に実施すべきですか?・・・」といった「議論」が生じるようになりました。
これまでお互いが「心の中でモヤモヤ」していたところから、「議論・確認を通じて腹落ちする」という新しい慣習定着への第一歩を踏み出すことができました。
「Off」でのコミュニケーション改善
Onの対策に加えて「心の中のしこり」を解消させる工夫として実施したのが「一緒にランチ作戦」です。
リーダー層とメンバーでカジュアルな交流時間を取るよう、プラットフォームチームで、リーダー×メンバーのランチ交流優先順位を組み、毎週ランチ候補者を設定しました。
例えば候補者とリーダーの会議を午前最終枠や午後一枠等で設定し、極力自然な流れでランチに誘えるように(裏でこっそり)調整するのです。
あくまでも「人対人」としての接点づくりが目的ですので、「仕事の話しをトピックとすること(あるいはしないこと)」等のルールは設けず、ただ自然な流れでランチを一緒にしてもらいました。
メンバーが一巡する頃には、ちょっとした相談や、打合せの事前/事後に、メンバーからリーダーをランチに誘うような動きも出るなど、相互に話し合う雰囲気作りに一役買うことができたようです。
【対策:「政治」の利用】
最後に、このプロジェクトにおいては欠かせない活動として「社内の支持を取り付ける」というものがありました。
実は、PJチームだけでなく、この会社自体もグループ各社・各部門からの出向者を大量に受け入れ、基幹システムの入れ替えという大きな取り組みに際し、各部門がそれぞれ異なった思惑を持っており、その調整にはまり過ぎてしまったこともプロジェクトを迷走させた大きな原因でした。
そこで、敢えてある部門を最大のスポンサーに選択し、その前提で他の関係部門の懸念を極力解消・低減するよう活動方針を定めました。
これにより責任の所在も明確化し、部門間調整においても解決の方向性を探りやすくなる効果を得ることができました。
【今回のまとめ】
「こういう場合はこうすれば良い」という意味での「正解」では決してありません。
あくまでも「あるPJにおいて、そのPJ固有の背景・環境・制約の中で、どうしたか」という事例に過ぎません。
人そのものを変えようとすると、それ自体に大きなパワーが必要であり、多大な時間を要することになります。
しかしこの事例を通じてお伝えする「特徴」があるとするならば、いずれも
「直接的に、誰かの考え方、やり方を変えようとは一切していない」
ということが言えると思います。
基本的にはリーダーとメンバーとの関係、各役割を担うメンバーの現状(スキルやマインドの過不足)や環境要件について、「既にそこにあるもの」としてありのままに受け入れ、
「チームとして機能するために、どう組み合わせ方を調整し、最小限のサポートで、最大限の力を引き出すか」というところに力点をおいて取り組んでみた事例として、ご参考になれば幸いです。
次回は
Planning/Execution機能の強化: 身近に居た「適材」を借りる&敢えての「隔離」
について、ご紹介したいと思います。
IY
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