ダイバースリーダーシップ推進協会 ブログ

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“DXの実現。新事業創造を阻む、現場の目詰まり” 目詰まりのない組織 #9(上) ~ アフターコロナも輝く組織でいるために ~

【新事業創造を阻む、現場の目詰まり】 

 前号では、企業の意思決定機能を「脳」に例え、大きく環境が変化しているにもかかわらず、旧来方式の意思決定プロセスのみを継続適応している状況を、「目詰まり」として指摘した。

 その背景として、テクノロジーの進化等により、過去にない新たな価値提供にチャレンジできるようになった反面、これまでと同じ提供価値の範囲内で競争をしていても、事業成長は限界があり、新しい価値で、新しい市場・需要喚起を行うことが必要になった事が挙げられる。

 

ユーザーも我々提供サイドも経験したことがない新価値。その価値とは何なのか?

 

 ゴールが見えない不確実な世界においては、確度予測に基づく意思決定は行えず、事業化シナリオに沿ったフェーズでの意思決定(フェーズドアプローチ)、すなわち、リスクをコントロールでき、好機に一気に攻め込める意思決定が必要になっていると述べた。

 

 それは、顧客とともに、顧客と対話を繰り返しながら事業を創っていくという新しい事業構築アプローチへの対応、最適化であることにも触れた。

 

 今号では、その意思決定の前提となる、事業構築アプローチの変化について、事業立上げ・確立こそが会社組織の存在意義であり、勝ち/価値を継続する要であるということから「腰」と捉え、上下2回に亘ってその機能不全を「腰の目詰まり」として取り上げさせていただく。

 

 先に述べた通り、時代の大きな変化の根本は“テクノロジー(IT)の進化と活用における統合力”=I T統合力(I T統合力は後述)にあるとDLAは考える(コロナは、その活用や浸透を加速させたが、変化の根幹ではない)。

 

 これは、これからの事業モデルのコアコンピタンスの1つは、進化したIT技術とその活用におけるリソースの統合力であることを意味し、そして、多くの企業は、それを持っていない。

 このコアとなるテクノロジーや能力を、これまでマーケットのリーダーであった企業ではなく、時にベンダーとして格下にみられていたIT企業や、創業数年(スタートアップ)のITベンチャーがもっている。この構図がまた難しくしている。

 

I T統合力とは】

 ここで言う「I T統合力」とは、これまでのI T(情報技術)の単なる導入=システム化 とは異なり、意思決定、運用段階、エンハンス等各フェーズに必要な要素を有機的に統合してI Tを整える能力である。

 

 “統合”は、データの統合(アナログとデジタル、重要ではあるが個別に管理されている各種情報、既存システムから新システムへの移行など)はもちろんの事、発注サイド(ITを利用するユーザー企業等、何をI T化すべきかを本質的に理解している側)と受注サイド(オーダーされた意図を理解し、トランスフォーメーションを実現するコンサル・ベンダー等)の統合。

 さらには眠っている社内リソース(経営、現場、専門家、ユーザーなど多様な知)の統合、各層およびトランスフォーメーションプロジェクトとしてのすべての層を対象とした統合的推進を意味している。

 

 

 

【体制と姿勢。コアコンピタンスの外部調達の難しさ】

 新価値創造の起点にITの進化があり、ITがビジネスモデルの可能性を格段に広げた。

 しかし、このITの進化をしっかり理解できていないにもかかわらず、多くの企業、特にこれまで業界をリードしてきた大手企業は、従来と同様に、新事業の構想を自分たちのみで描こうとしている。

 そして、それを実現する提案をIT企業に求める。

 

 そう、今までとまったく変わらない座組と姿勢でIT企業に接し・扱う。そして生まれるのは既存事業の延長にあるIT活用であり、全くトランスフォームが起こらない“名ばかりのDX”となっているのが実情だ。

 

 コアコンピタンスが進化したITにある以上、外部IT企業を自社のリソース(身体能力の一部)として統合する必要がある。

 言うことを聞かせる対象ではなく、今後のITの可能性を教えてもらい、創発により、事業展開する/しようとする産業での、ITの新しい活かし方を提供価値・ビジネスモデルとして描く。

 

 すなわち、“ベンダーシップ”から“パートナーシップ”へと臨む姿勢を変え、彼らの発想と技術をしっかり取り込むことが重要なのだ。

 実際、DXをうまく進めている企業は、社外のエンジニアリソース(広義)を非常にうまく取り込み、密に連携し、DXがBX(ビジネストランスフォーメーション)へと結びついている。

 

 ビジネスを支えるツールとしてのIT活用の時代から意識が抜け出せず、ベンダーマネジメントをしてしまう企業はいまだに多い。

 この意識が新規事業創造(アイデアの創出~構想策定)を阻害する大きな理由となっている。

 

 

 事業におけるITが占めるウェイトが増えており、近い将来、多くの企業がエンジニアを直接抱えるようになり、重要な意思決定、事業戦略策定、新規事業創造の場にコアメンバーとして加わるようにもなる。

 これまでの事業をリード・支えてきた社員とは、エンジニアの志向性・価値観は異なるケースが多い(少なくとも、異なるという前提で対応したほうが良い)。

 

 社員としてエンジニアを抱え、活かす時代に向けた準備としても、その移行期として、これからの外部エンジニアリソースのイコールパートナー(=外部専門家・リソースという、活用する外部の方から、場・時間・課題あらゆることを共有し解を出す内部コアメンバーへ)としての活かし方を学ぶべきである。

 

 

【イコールパートナーのための多様性と心理的安全性】

 一言でイコールパートナーと言っても実際にはそう簡単ではない。

 それを阻む2つの壁が存在し、それが真の意味での多様性と心理的安全性である。

 

 先に述べた通り、ベンダー的役割(機能)として見ていたエンジニアと、本当のパートナーとして並走するためには、これまでの関係性を自ら否定し、意識を変え同じ立場として協働しなくてはならない。

 すなわち、命令や指示が合意形成に変わり、発注・報告させる・検収というプロセスが協働に変わる。

 つまり、使うという発想・立場(ピンポイントでの関わりであり、遂行責任も委譲する)から、一緒に課題解決する意識(文字通り同じ船に乗る)改革が不可欠となる。

 

 1つ目の壁はDLAの基本概念であるシンメトリーが乗り越えるヒントとなる。

 すなわち、多数派が少数派を許容するという発想ではなく、個々の人々は全て同じ価値を持ち、それぞれが異なった個性を持っている、その違いに興味を持ち、受け容れることを楽しむこと。

 Symmetry(シンメトリー=異なるものどうしが等価)であることが重要となる。詳しくは第2号を参照されたい。

 

 2つ目の壁は前々号の心理的安全性だが、ここで問題なのが、誰の心理的安全か?という問いである。

 文脈からすると、エンジニアの心理的安全性が重要と考えがちだが、実は発注側の心理的安全性も同様かそれ以上に必要なのである。

 

 まだまだ多くの日本企業において、エースと呼ばれている人材は過去の実績やこれまでの評価軸において「優秀」と判定された人材であろう。

 繰り返し申し上げている通り、この前提自体が変わったため、エースが選ばれる基準も変える必要があり、そもそも少数のエースに会社の存亡を預けられるほど単純な状況では無くなった。

 

 運よくこの変化に気が付き、対応しようと考えた時、これまでエースとして認められていた人材は、「考え方を変えろ」、「ベンダーを使うのではなく、自ら協働せよ」と言われても、自らの過去の成功体験を否定する必要すら覚悟しなくてはならない。

 

 従って、これまでのエースが手柄を独り占めしなくても、失敗をしても、ベンダーだと思っていた人たちから、建設的な反対意見を公の場で言われても、安心して受け止められる「安全性」を会社として担保する必要があるのである。

 

 この一連の意識改革が達成できたら、いよいよ本番である。次号では、本号に続いて新事業創造の肝をお伝えして行きたい。

 

次号へ続く

 

 

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