PJの現場から(3) – Planning/Execution機能の強化: 身近に居た「適材」を借りる
「PJの現場から」の第3回。前回「Leader機能の強化」では、コミュニケーション不全を「行動様式の違い」と捉え、On/Off両面で「行動に枠組みを適用する」ようそれとなく調整したり、リーダーシップ強化のためならば社内政治だって利用する、というベタなエピソードをご紹介しました。
【おさらい:PJチームの状況】
PJの方針があまりにも二転三転して「やらされ感」が蔓延した結果、「言われたことだけ」を黙々とやる姿勢のメンバーだらけの、最早「チーム」と呼べない泥沼の状態でPJが再スタート。
この状況に対処すべく「プラットフォーム」チームが招集され、PJチームの立て直しに着手することになりました。
第2回 Leader機能の強化: On/Off両面でのコミュニケーション&「政治」の利用
今回は、PJの実働部隊である「Planning/Execution機能の強化」についての事例をご紹介します。
※なお、全3回シリーズの予定でしたが、ご紹介したい文量が多くなってしまったため、今回+あと1回の全4回にてお送りします。少々長くなってしまいましたが、どうか飽きずにお付き合いください。
【Planning/Execution機能の状況】
さて、まずは「Planning/Execution機能」に生じていた問題は、ざっくり3つがあげられました。
問題① PJとして「解くべき課題」や「そのための作業」について、全体を俯瞰して構造化・計画化できない(ストラテジスト/エグゼキューションデザイナー機能の不全)
問題② 「新システム導入の姿」は語れるが、それによる「現場への影響」について、ユーザーとの会話が進まない(メンタリスト機能の不全により、ストーリーテラーが語る未来像が「腹落ち」していかない)
問題③ PJとしての実現性を度外視し、個人的な嗜好性の実現にミスリードする
(マッチメーカーの機能不全をコンシェルジュが個人的な嗜好性も含め誤った方向に増幅する)
それぞれの内容と対策を見ていきましょう。
【問題① PJの構造化・計画化ができない】
対象となる業務・システムの範囲が広い大規模PJでは、考慮すべき事項や解くべき課題が多岐に渡り、どこからどのように手を付けていくべきか作戦・計画を立てること自体が非常に難しい仕事となります。
多くの大規模PJでそうするように、この会社でもPJパートナーとして大手コンサルティング会社A社に支援を委託していました。
大規模PJ経験の無さを自覚していたこの会社としては必然と思われた選択でしたが、残念ながら結果的にこのパートナー選定はうまく機能しませんでした。
- 現行保守ベンダーB社との関係もあり、A社が「PJ全体」に責任をもつ契約を結ばなかった
- A社プロジェクトメンバーは、導入する「ERPパッケージそのもの」や「対象業務」についての知見はあったが、大規模プロジェクトの管理、特に「計画を具体化する力」が不十分だった。
- そもそも、この会社自身にプロジェクトを計画・発注する知見が不足しており、パートナー各社の
「支援ご一式」という提案に対する具体的な確認・検証が不十分だった。
(実際、「PJ一式」を「一括発注(丸投げ)したい」というのが、まさに本音だった)
…大なり小なりどこのPJでも見られそうな状況ですが、前回お伝えした「リーダーシップの機能不全」もあって「現場任せ」が横行し、パートナー各社に「何のアウトプットを」「何人月の想定で」「いくらの平均単価で」発注しているのかすら確認できない状態となっていました。
【問題①への対策:「適材」を借りる – その1】
この状況に激怒した部門があります。全社の予算管理を担当する財務・経理部門と全社の発注業務を統率する購買部門です。
状況が明らかになるにつれ、連日両部門からの説明要求の嵐となりました。
プラットフォームチームの一員として説明責任を果たすべく、財務・購買部門からの説明要求を受けとめ、PJ現場で収集した良い情報も悪い情報も誠意を以って報告し、予算・購買観点でのフィードバックをまた現場に伝える、、、そんな日々を繰り返していました。状況が明らかになればなるほど、財務・購買部門は呆れるばかりでしたが、IT部門自身の能力不足も含め、ひたすら真摯にコミュニケーションを続けました。
結果、何が起きたのか。
財務・購買のスタッフが、ITの見積りプロセスにも入って作業計画や見積り・発注内容をチェックしてくれるようになったのです。
もちろん厳しくお叱りを受けつつではあるのですが、「とにかくこのPJをどうにかしよう」というサポートを得ることができるようになりました。
(「それで良いのかは別として…」という関係者の共通認識のもとですが。。。)
【問題② 「新システム導入の姿」について現場ユーザーとの会話が進まない】
さて、実際のシステム導入検討の中身についても困った状況が生じていました。
ERP導入のコンサルタントは「ERPを導入した姿」については語ることができるのですが、業務部門の代表メンバーが悩んでいたのは、「もっと個別具体的なケースも含め、事務が回るか」であったり、「どうしても反映してほしい自部門の要件をどう取り込んでもらうか」であったりしたのです。
結果的にコンサルタントは「ユーザーがOKを出してくれない」と言い、業務部門メンバーは「コンサルタントが提案を押し付けてくる」と言い、両者の間でのフラストレーションが高まっていきました。
【問題②への対策:「適材」を借りる – その2】
ちょうどその頃、ある若手メンバーCさんが海外駐在から本社IT部門へ戻ってきました。
もともと営業部門出身のCさんは、海外拠点への営業システム展開のため、一旦籍をIT部門に移して現地IT部門のメンバーとして派遣されていたのでした。
本来は本社側で当該システムの運用を数か月確認したのち、原籍の営業部門に戻ることになっていたのですが、業務部門の事情もIT導入の進め方もよく理解していたCさんを手放せるはずはありません。
本人にとっては甚だ迷惑だったかもしれませんが、業務部門代表メンバーの事務局(世話役)として、コンサルタントとの橋渡し役を担ってもらうことになりました。
この会社では「年齢」や「職責(肩書)」を比較的重視する文化であったため、部課長級を中心とした業務部門代表メンバーにとっては、若手メンバー層であったCさんに対する期待値も当初はあくまでも「お世話係り」というレベルでした。
しかしながら、業務もITも理解でき、営業出身ということもありコミュニケーション能力にも長け、若手であるがゆえに両者から話しかけられやすいという特性をもつCさんはまさに「メンタリスト」。
その特性をフルに活かしてコミュニケーションを仲介することで、業務部門メンバーとコンサルタントのコミュニケーションは徐々に、しかし目に見えて改善されていきました。
その後の要件確認作業は順調に進み、無事に要件定義の完了を迎えることができました。
これまで長年にわたって越えられなかった「要件定義完了」の壁を乗り越えるのに必要な、最後の1ピースがCさんだったと言っても過言ではないのです。
※と、文量が多くなってきましたので、今回は問題①と②のご紹介で一旦区切ります。
【問題③ PJの実現性を度外視、個人の嗜好性を優先】
については、次回ご紹介いたします。
【今回のまとめ】
前回まとめでは「直接的に、誰かの考え方、やり方を変えよう」とするのではなく、「メンバーの現状や環境要件をありのままに受け入れ」たうえで、チームの力を最大限に引き出すという考え方をご紹介しました。
今回も基本的には同様ですが、「必要なスキルセットが不足している」ということがより明確な状況に対して、「今いるメンバーを前提とせずとも、外部を巻き込んで力を借りる」という考え方もあることがお伝えできたかと思います。
また、11の人材タイプを線で結ぶことで、「人材タイプ間の相互作用・関係」に着目して現状を理解する一助とすることもできることをご紹介致しました。
具体的な活用方法にご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。
次回は、やや特殊な事例となりますが、
Planning/Execution機能の強化:敢えての「隔離」
について、ご紹介したいと思います。
IY
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