“戦略が動かない・指示が実行されない!” 目詰まりのない組織#5 ~アフターコロナも輝く組織でいるために~
【エンゲージメント=首の目詰まり】
前号では組織の「目、耳、鼻、口」、すなわち情報収集における目詰まりについて述べた。
組織として、とりわけ意思決定の場で、不都合な真実も含めて“事実”を把握することの重要性と難しさ、さらにはその実現のヒントについて触れた。
この情報収集の目詰まりが解消されることにより、適切な意思決定が実現し、有効性の高い戦略や施策の策定が可能になる。
この情報収集と戦略・施策の策定は、人間の身体で例えれば「頭」で行われることに位置づけられる。
事実情報が組織として集約され、分析され、活かされ、戦略や施策として意思決定される。次は、この戦略や施策を“動かす”番となる。
頭でできあがった戦略・施策を、胴体・手足(以降「ボディ」)へと伝達し、実行するわけだが、そこにも目詰まりが発生する。頭とボディをつなぐ「首」の目詰まり、つまり計画と実行をブリッジする“エンゲージメント”の目詰まりだ。
会社と個人の関係が主従関係からパートナーシップへと変わりつつある中、コロナによってテレワークが一気に広まり、私たちの働き方が大きく変わった。
パートナーシップという対等な関係、すなわち、サラリーマンの会社からの心理的独立の進展に被さるように、「会社に行かない」、「仲間と会わない」、「会議以外ではほとんど話さない」など、会社との距離が生まれる方向への力学が働いた。
会社に愛着を感じ、所属することに価値を見出し、貢献しようと思うエンゲージメントがなければ、どんなに有効性の高い戦略・施策が策定されたとしても実行はままならない。
これまで、戦略・施策の実行において、エンゲージメントの問題も含め、会社という「場所」(=箱)に物理的に集合することを前提に、その重要性や課題、その解決の議論が展開されてきた。
“所属”していることが、物理的環境によって担保され、その価値を感じることができたのだ。しかし、この前提が大きく変わった。
出社しない、集まらないという“所属価値”を感じ難い働き方となる中で、いかにエンゲージメントを維持・向上していか、今号では考えてみたい。
【「カイシャって何?」組織に与える会社の影響】
恥ずかしながら、組織・人事のコンサルタントでありながら、これまで筆者は、「会社=仕事場」程度にしか考えたことがなかった。
しかし、コロナ禍で、ほとんど出社しない日が続き、在宅という1人職場で仕事をするという経験を通じ、「会社」とは何なのだろうかと考えさせられた。
「組織から“場”としての会社を引き算した場合、私たちはどのような影響をうけるのだろうか?」と。
組織を成り立たせる3要素として「共通目的」「協働意欲」「コミュニケーション」というのがある(バーナードの組織論)。
会社という“場”の存在を前提としなかった場合でも、「共通目的」は会社や働く個々人の目指すもの、共感しあえるものという性質上、大きな影響はないだろう。
しかし、「協働意欲」「コミュニケーション」は、同じ職場で働いていた、お互いが見える場で働いていた時と変わらないというわけにはいかない。
テレワーク下では、「コミュニケーション」は、共通目的の達成のための合目的なもの、予定されたもの中心となる。
一方で、偶発的・自然発生的なコミュニケーションは失われる。
挨拶をする程度の「会う」という最低限のコミュニケーションすらできなくなり、組織・チームとしての一体感の希薄化が起こる。これについて大手企業の人事の方がおっしゃっていた。
「テレワークで一体感は確実に減少している。それどころか不安や孤独感による疑心暗鬼がチームをバラバラにしてしまう」と。
会社という場の存在が無くなるだけで、これだけの問題がおきてしまうのかと、場の重要性を考えさせられるコメントだった。このような状況では、協働意欲など生まれるはずがない。
【モチベーションとエンゲージメント】
このように、コミュニケーションの偏りや、そもそも取り難いという状況が、チーム内のつながりの希薄化や1人仕事感を助長させ協働意欲(共通目的達成に向け、仲間と頑張り、相互に支援し高めあう気持ち)を減退させる。
そして、この協働意欲の減退が、コミュニケーションをとろうと思う気持ちを減退させ、さらにコミュニケーションの希薄化を生み出すというデフレスパイラルを発生させてしまう。
この協働感のなさ、仲間不在感のデフレスパイラルが、組織への所属価値を下げる。
厄介なのは、この所属価値が低下しても、モチベーションが低下するわけではないことだ。
自分がやるべき作業はやるという意欲と義務感、場合によっては達成感が下がるわけではない。
それぞれが、担当作業をサボることなく、しっかりやるが、エンゲージメントは低いという状態が起こる。
戦略・施策は組織全体での協働・協調によって実現されるもので、個の作業の足し算では達成しえない。
このモチベーションが高く、エンゲージメントが低い状態とは、作業の主語も目的もすべて自分になってしまい、目的に会社や組織貢献が出てこず、協働・協調が生まれない。
会社の生産性は高まらないが、個人の忙しさや効率性は高まるというテレワークの問題はここにある。
すでにお気づきかと思うが、ここに悪者はいない。新しい働き方の構造的な問題によって、戦略と実行(業務遂行)の間にある、人の気持ち、エンゲージメントに目詰まりを起こしてしまうのだ。
【カイシャという“場”の再設計】
テレワークを中心とした新しい働き方のメリットを享受しつつ、いかにこの目詰まりを解消していくか?これこそが、会社も社員もハッピーになるためにクリアすべき問題である。
ここで重要な問い、初めの一歩となる問いはやはり「なぜ、出社するのか?」だ。
カイシャという場へ、何をするために来るのか、この目的を明確にしたうえで、カイシャでやるべきことと/やらないこと、出社タイミング(出社日数と出社者)、デジタル化も含めた業務プロセス、さらにはオフィスのレイアウトまで1つの考え方に基づいてロジカルに設計・運用されることが求められる。
ここに唯一の最適解はなく、業務特性や業務分担の在り方や構成メンバーの習熟度・自立/律度、情報共有の難しさ(複雑性とインフラ)、マネジメントスタイル、組織のステージなど合理的な視点と、私たちはどんなチームでありたいかという思いから議論していくことになる。
同じ業界や業態であることにこだわることなく、違う業界の考え方だったり、考え方の近しい企業のやり方を取り入れるのも、新しいエンゲージメントの目詰まり解消には有効であろう。
最後に、この検討はWithコロナに求められた“出社しなくてもよくすること”が目的ではない。
あくまで、戦略・施策の実現のための組織・チームづくりと最適な働き方を実現することが目的であることにご注意いただきたい。
DLAでは、戦略と実行をつなぐエンゲージメントの向上に向け、新しい働き方の設計から、それらを支える諸制度の設計・運用のご支援まで幅広くご提供しております。エンゲージメントの目詰まりに課題・懸念をお持ちの企業さま、お気軽にご相談ください。
T.Y
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