“「不都合な真実」に向き合いますか?” 目詰まりのない組織#4 ~アフターコロナも輝く組織でいるために~
【聴きたくない、知りたくない情報こそ必要】
彼の松下幸之助氏は、一番聞きたくない情報を最もエネルギーを使って収集した。大きな失態を犯した部下がそれを告げると、「良く知らせてくれた」、「助かった」、「これで手が打てる」と言った具合に。
更に、「他に問題はないか教えて欲しい」と。
いつしか、誰よりもネガティブな情報に精通し、迅速に的確な対応を可能にしたそうである。
知られたくない情報の収集達人と言って差し支えないエピソードだと思う。
今回から、目詰まりの箇所について解説したいと思う。第1弾として、「目、耳、鼻、口」=情報収集の目詰まりについて考えてみたい。
読者諸氏は、日常の変化にどの程度気がついているだろうか?
実は人間は普段気にかけている情報にしか反応しにくく、変化に気づき難い。
例えば新聞紙を広げている電車の乗客が減っていたり、路上にガムの食べカスが減ったりなどは、言われればそんな感じはするが、常に的確に捉えているわけではないだろう。(因みに、どちらもスマホの普及の上昇曲線と、負の相関があるようだ。)
今の変化だけではなく、これから起こる変化の予兆となると、実に難しい。故にアフターコロナでは、どれだけ情報収集を意図して行うか?アンテナを研ぎ澄ますか?が必須な時代を迎えたのだ。
アンテナを張るためには?
【アンテナを張るために現在地を確認する】
アンテナを張ると言っても、事はそう単純ではない。自宅に新たにアンテナを張るのとは訳が違い、これまでご紹介してきたプールから海への変化で言えば、プールと比べ海を組織(船)で航行すると考えると、多くの情報が不可欠になる(海図、水深、風向き、潮流、漂流物、生物、突起物、他の船舶などなど)。
アフターコロナは未開の海であり、アンテナを張り巡らせなければ、自分のいる位置すら分からない。
即ち、これから求められる情報とは、まず己の居る位置を正しく把握する事から始める必要がある。
しかも情報は溢れかえっている。玉石混交に加え、必要な全ての情報が手軽に手に入るわけではなく、かなり意図を持って取りに行く必要がある(特にネットの情報は本人が気づかずに自身にカスタマイズされた情報であり、世の中の全てではない)。
つまり、意図して多角的に情報を入手しなければ、偏った情報に囲まれかねないという事である。
【情報のカバー範囲を可視化する】
では、どんなアンテナを張るべきか?つまり、どんな情報が必要か? 更にはそれをどのように入手するか? 入手データの質(信頼性があるか? それは何を表しているのか? そこから何が読み取れるか?)はどの程度か?
確認すべきポイントは山程存在する。
我々が定義した、情報収集の目詰まりでは、目、耳、鼻、口による情報で表現したが、1つの例を示してみたい。
これは決して新しいトピックではないが、2019年に新規受付を終了(2026年3月末にサービスも終了予定)した、 「iモード」を考えてみよう。
ご存じのとおり、「iモード」はNTTドコモが提供したサービスであるが、今から見ても非常に先駆的なサービスであったと言える。しかし、何故iPhoneやAndroidになれなかったのだろう?情報収集の目詰まりの文脈で考えて見たい。
最盛期のユーザーは4800万人超で、インターネットを家で使えるものから、外でも使えるものに進化させた功績は、GoogleやAppleが参考にしている事からも、世界のモバイルシーンにおける父的な存在と言っても過言ではないと考えられる。
しかし、現在の世界スマホユーザー数は40億を突破している事からも、4800万人は1.2%に過ぎない事実を見ると、目の要素で考えた場合、視野は世界を向いていたのか?何年先を見据えていたのか?どんな使われ方を見通していたのか?という部分は、目詰まりを起こしていた可能性は否定できない。
ネットもできる電話なのか、電話もできるネット端末なのか?このあたりは、何れかの時点でその兆候(電話からネット端末へのシフト)を嗅ぎ取る事は出来なかったのか?匂い=雰囲気を掴む機能の目詰まりを疑ってしまいたくなる。
1つのヒントとして、徹底的にどんなユーザーがどんな使い方をするのか?生活の中のどのような変化が生じるのか?については、実際に味わってみる=使い倒してみたり、あらゆるユーザーの味わい方(使い方)を想定してみたり、という観点での目詰まりがあったのかも知れない。
「iモード」はある意味進み過ぎてしまったため、「iモード」に合わせるべきという思想が強かったのではないだろうか?特に、日本における通信キャリア(特にドコモ)のポジションや立ち位置は強く、海外のメーカーとキャリアの関係から見ると、大きく発言力やリードする力は強かった事が想像出来る。
一方、海外ではメーカーが強い主導権を持っている場合が多く、国内キャリアとはかなり環境が異なる。仮に40億ユーザーを目指すのであれば、国内においてもメーカーからの声を聞けていたのか?という耳における目詰まりの可能性も疑われる。
ドコモは富士通やN E Cと組んで海外市場を目指すものの、各国の通信政策という壁に阻まれる形になった。
そこでご存じi PhoneのAppleはキャリアに従属しないスマホを作り、コンテンツはキャリアではなくスマホに依存するプラットフォームモデルを構築する事となった。
このように、情報収集という観点で切り取ってみると、目詰まりの可能性が浮かんでくるように思える。もちろん、内部情報を知り得る立場ではないため、あくまでも想定の域は超えない点はご容赦を。
では、情報収集の感度の上げ方はどうすれば良いのか?について、考えたい。
【幽体離脱のススメ=情報の質を精査する】
「彼を知り己を知れば百銭危うからず」孫子の有名なフレーズである。
そんな事は分かっている。という声が聞こえて来そうであるが、本当にそう言い切れるものだろうか?
人は往々にして、自分(達)に都合の良い情報だけに囲まれたい有機体である。どこかの政府でも忖度というフレーズが毎日飛び交っていた事が記憶に新しい。
Yesマンばかりで周りを固めたいと考える事は周りでも起こっていなだろうか?
分析と言う名のもとに、主張したい内容を補完したり、正当化したりするための情報収集や分析が行われていないだろうか?
これらを避けるために、オススメしたい思考が幽体離脱である。一度自分や自組織から離れ、完全に敵や反対の立場、第三者などの視点に立ち客観的に考えてみる。
ディベートのテクニックに悪魔の代弁者(devil's advocate)という手法があり、(語源としては16世紀頃にカトリック教会において、雇われた「列聖調査審問検事」を指し、検事が聖徒の候補者を聖者としてふさわしいかどうか敢えて反論し調査・審問したことから、「あえて異を唱える」「わざと反対意見を述べる」という意味になった)健全な思考を担保し、自由に批判・反論できる状況を作るものである。
心理的安全性にも通じる考えで、多角的に物事を考える。つまり、メディア、本、ネットなどでも、必ず反対情報や異なる視点の情報を入手することが重要である。
耳の痛い情報、避けたいネガティブなデータや意見にこそ、耳を傾け、目をむける。実際に反対意見を持った人材にあって触れて議論を交わしてみる。
異なる考え方や異なる視点を持つ側に身を置いてみる事で、雰囲気や何故異なった見方になるのか?を感じてみる(味わい、鼻を利かせてみる)
これを昨今リバイバルしてきた表現でアジャイルに、トライ&エラーを繰り返す。
経営者であれば、情報入手先は競合や顧客だけではなく、現場の社員も重要であり、現場しか知らない情報を自ら取りに行く。
アメリカ元副大統領のドキュメンタリー映画に「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」がある。もちろんご存じだと思うが、今やこの不都合を疑う人間は少なくなっているものと思う。
アフターコロナを生きる我々人類にとって、不都合な真実から目を背けない姿勢を、危機感を持って実践したいものである。
金杉リチャード康弘
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