ダイバースリーダーシップ推進協会 ブログ

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均質化からの脱却(—日本柔道の挑戦)

均質化からの脱却

 

 2017年明けましておめでとうございます。

本年最初のメルマガは日本柔道界の挑戦について考えてみたいと思います。

 

 日本の国技、お家芸と言っても過言ではない、柔道。

しかし、ここ数年弱体化が進んでいました。

この経緯については、2013年にブログ記事を書いていますので、よろしければ、

2013年の拙著ブログ 「全柔連は何を間違えたのか?」 をご参照ください。

 

 柔道には、世界柔道選手権大会(1956年〜)、オリンピック(1964年〜)の2つの世界大会があります。

この2つで日本は常に世界トップの成績を残して来ました。

 特に、男子柔道では、体重別制度が導入される以前、無差別トーナメント制のみの開催だった1961年の世界選手権を除き、

2つの世界大会に於いて常にメダルの多数を勝ち取って来たのです

 しかし2011年の世界選手権では、フランスに金メダル数で負け、2012年のロンドン五輪では男子金メダルゼロという、

未曾有の結果となりました。

 当時、この結果は衝撃をもって受け止められ、メディアによって様々な検証が行われました。

監督体制の変化とコーチの削減、基礎練の量に寄った練習による選手の過度な疲労、世界の
”JUDO”やルールの変節への対応の遅れ、、

 報道記事のタイトルには「なぜか金がとれない、、、男子柔道。日本柔道の方向性は間違いないのか」文芸春秋社 Number 2012年)、

「日本柔道、ロンドン五輪『惨敗』の真相」集英社 Sportiva 2012年)など、「日本柔道」という言葉が並んでいます。
 2011年当時、正にこの言葉に現れているように、柔道の発祥国である日本では、その誇りから、「日本の」柔道はこうあるべき、

という考えがベースにあり、柔道に関わる全員がその伝統的精神を正しく理解し実践する、という、いわば「均質化」

に重きがおかれた育成が行われていたようです。

 

 ロンドン五輪後、男子柔道の監督は現在の井上康生監督にバトンタッチされ、井上監督が、様々な改革に着手しました。
この中で、DLAとして特に注目したいのは、日本柔道という大看板に於ける均質化(世界のJUDOがどうであれ、

日本柔道はこうあるべきという考え)から多様化への挑戦です。

 実際の取り組みなどを踏まえ、考えてみたいと思います。



自らを客観視する

 2012年当時メディア等で紹介された全柔連の幹部や専門家のコメントの代表的なトーンは、概ね以下のようなものでした。

 

「以前ほど勝てない理由は、ルールの改正が問題だ」
「今の選手の精神が弱いから」

「勝てない選手は日本伝統の柔道が十分に習得できていない」

 これをみると、他責や精神論が優先していたように思われます。

真の課題は、日本柔道の世界での実力・位置づけ、本質的な課題に正面から向き合えていなかったことにあったのではないでしょうか?

 

 この点に井上監督がどのように切り込んでいったか、日経ビジネス誌 2016.10.17号の編集長インタビュー「柔道を窮め、JUDOを制す」

が読み応えがありましたので、一部を参考に要約し、以下ご紹介します。 

 前提として、日本の伝統的な柔道と、世界大会・オリンピックで行われるJUDOは別の競技であること、

現代JUDOは、技術力と体力、そして勝つための戦略的な心構えが必須であること、そして、それらは、

日本柔道がそれまで大切にしてきたものと、少し観点が異なるという事実があり、それを深く理解し、

受け容れる必要があったそうです。

 

 伝統的な柔道は技術力を最も得意とし、美しい柔道・一本勝ちにこだわります。

しかし、体力については、基礎練だけで鍛えられない部分に外国人選手に比べて劣る部分があり、

心構えも、いわゆる精神論ではなく、”勝つために必要なメンタリティ”(自分と相手の実力を客観的に理解する思考性、

試合の戦略的な運び方、量ではなく意味ある練習に取り組む考え方など)に弱点がありました。これらについて、

それまでの練習では必ずしも着目されて来なかったと言います。

 

 

柔道とJUDOの違いを受け容れる

 

 そもそもJUDOとはどのようなものなのでしょうか?

世界標準としては、レスリングの一種であるCACC、ロシアのサンボ、ジョージア(旧グルジア)のチタオバ、

モンゴルのブフ(モンゴル相撲)、ブラジルのブラジリアン柔術など、様々な格闘技のルーツの複合体がJUDOであるようです。

(出典:GONG格闘技 2012 10.23 No.244)

 

 井上監督は、「我々はJUDOを目指す必要は無いが、JUDOを研究し知り、良いところを認める必要がある」といっています。

そして、JUDOのこうしたルーツと各ルーツを背景に独自のJUDOが作り上げられた経緯を、選手と共に研究したのです。
 単に、「ルールが日本選手に不利」、「逃げ回って勝負しない柔道は柔道ではない(リオ・オリンピックの100キロ超級の決勝戦)」

という考え方ではなく、違いを理解し受け容れることで、自らが取り組むべき課題が見え、その克服に対し、

どのような「意味のある取り組み方」、「練習方法」、「試合の運び方」があるのか?を徹底的に考えることが重要なのですね。

 

 事実、井上監督率いる日本柔道チームは,2013年以降の世界大会では、獲得メダル数首位を奪還、

さらに昨年のリオ・オリンピックでは7階級全てでメダルを獲得することができました



正しい問いを立てる

 「なぜ、今の選手は日本の柔道をもっと精神面も含め極めないのか?」が、
最初の問いだったとしたら、今回の復活は成し得なかったのではないでしょうか?

 それを裏付ける事実として、世界中の選手は日本に学びに来て、日本柔道を学び、各選手の特徴も研究しているそうですが、

その逆、日本の監督や選手が世界の柔道を学びに行くことは、それまで少なかったようです。
 しかし、JUDOは変遷し、各国、各選手の実力もどんどん進化していました。

 

 「なぜ、日本柔道は以前のようにメダルを取れなくなったのか?、その真の原因は何か?」という問いであったから、

井上監督はイギリスで指導者として学び、他国を知る取り組みを実践しました。

 自分の現状の実力を理解し、相手をしっかり研究し、JUDOを理解することで、今の日本選手団に足りないこと、

その差を埋める取り組み、柔道の良さをいかにJUDOへ融合させるかを具体化して行った結果なのですね。

 

 このように、物事に正しく取り組み、結果を出すためには、スタートとして、「正しい問いを立てる」

ことが非常に重要なのだと考えます。

 DLAでは、多様性最大化のアプローチとして「5A’s(ファイブ エーズ)」という方法論を開発しました。

 この方法論の中では、「正しい問いを立てる」ことを、キーとなるステップと定義しています。

新年の新しい取り組みに活用いただきたいと思います。

詳しいご紹介をご希望の方は、是非お問い合わせください。

 

金杉リチャード康弘