PJの現場から(4) – Planning/Execution機能の強化: 敢えての「隔離」
「PJの現場から」の第4回(最終回)をお送りします。
前回メルマガでは「Planning/Execution機能」に生じていた問題が大きく3つあり、そのうちの2つについて内容と対策事例をご紹介しました。今回はやや例外的な事例となる第3の問題についてご紹介します。
【Planning/Execution機能の状況】
問題③ PJとしての実現性を度外視し、個人的な嗜好性の実現にミスリードする
(マッチメーカーの機能不全をコンシェルジュが個人的な嗜好性も含め誤った方向に増幅する)
【個人の嗜好性の優先】
このPJにおける様々な人材不足を補充する為に中途採用も積極的に実施していました。そうした中で採用されたAさんは、大手外資系コンサル会社・ソフトウェア会社でのキャリアも長く英語も堪能、しばらくフリーランスとして独立して仕事をしていたこともあり、新しい環境でもどんどん自立的に立ち回れる、まさにこのプロジェクトにうってつけのベテラン人材…だと思われていました。
もう一人の重要な人物Bさん。Bさんは現行システムにも詳しく、朴訥・素直な人柄で社内人脈も豊富、このPJの将来構想を練る重要なチームをリードする立場にあり、「この技術をこのシステムに適用したらこんな可能性が開けるのでは」という発想力も豊かなアイデアマンです。
しかし一方で細かい検討のツメは苦手で、そうした面を補佐してくれるサポート役を必要としていました。
そこでAさんをBさんの補佐役につけることになったのですが、しばらくして周囲がBさんの変化に気づきます。
Aさんが補佐に入ったことで更に色々な発想・提言が出てくるようにはなった…のですが…、「何かがおかしい」のです。
例えば:
- 提言が、常に、明らかにPJスコープ(納期・予算)を拡大させる方向でなされる
(いたずらに難易度・複雑度をあげてまで取り組む必要性・効果があるのかが謎のまま) - 発言力がある人の意見を「その人がそう言った」という理由で通そうとする。また、そのことを通じて発言力がある人を取り込み、派閥を形成しようとする
- 意にそぐわないメンバーには、陰で誹謗中傷の噂を流したり、打合せと称して呼び出し大人数で吊るし上げたり等の攻撃を行う
- 「調査」と称して明らかに不要不急の海外出張を繰り返す
- 検討の実務は外部コンサルを発注して丸投げしようとする
(ただし、発注内容をきちんと整理できていないため、結局明確なアウトプットも成果も出ない)
結果的にはこれら全てが、裏でAさんが糸を引いていたのでした。
Aさんは人の心理を読み、弱みに付け込む等の方法で相手をコントロールするスキルに非常に長けていました。
しかし、「PJの成功」には興味がなく、Bさんをコントロール下におき、「自分の影響力を拡大する」「経費で旅行する」という「個人的な満足感」を得ることに専念していたのです。
採用前のリファレンスチェックが甘かったといえばそれまでですが、その後判明したところでは、Aさんはこれまでの会社・現場でことごとく同様の問題を起こしてきた「いわくつき」の人物だったのです。
【対策:「隔離」】
PJへの混乱・悪影響は極小化しなければなりません。
これまで幾多の環境であらゆる相手を手玉に取ってきたAさん、状況証拠的には明らかに「クロ」なのですが、簡単には自分の関与の証拠を残しません。
逆にAさんを追求する動きを察知すると「〇〇ハラを受けている」と騒ぎ立てて牽制を図る等、非常に狡猾・悪質です。
そこで取った対策は「隔離」です。
残念ながらAさんのBさんに対するコントロールはあまりにも強力であったため、Bさんを真っ当な姿に戻す説得は不可能でした。
そこでAさんの負の影響力がPJに波及しないよう、やむなくBさんのチームごと隔離せざるを得ませんでした。
とはいえ上記のような反撃を極力回避するためにも、Bさんチームを「狙い撃ち」にするのではなく、PJ全チームに「フェア」に適用すべき考え方を徹底する、という点に留意しました。
具体的には「活動計画」「予算」をしっかりと管理し、PJ全体で整合の取れた活動計画を維持(更新する際にもPJ全体との整合性を確認)し、予算も活動計画の具体的なアクションに紐づけて見積りを取り、その内容・金額範囲内でのみ支出を認める。という至極真っ当なものです。
※それまでは、Bさんチームはある程度大枠での活動方針・予算枠で管理していたものを、他のPJチームと同レベルの管理としたものです。
こうした対策の結果、Bさんチームのおかしな動きについて、(それでも相当の反撃はありましたが)当面の間は抑制することができました。加えて、本来Bさんチームで検討すべき事項について、他のPJチームに再割当てを行い、なんとかPJ全体としての検討が進められるようになりました。
【今回のまとめ】
今回ご紹介した事例はかなり極端な例のため、対処法の事例紹介というよりも、おそらく参考になるのは次の二点ではないでしょうか。
- 「悪意のあるメンバー」というものも、時に存在する。
- チームの歪みは、放置するとPJ全体に波及する。
しかしながら、特に日本においてはこうした「明らかな悪意をもったメンバー」というものを元々あまり想定していない部分があり、こうしたメンバーを一旦内部に受け入れてしまうと、現実的にはその検知・対応は非常に困難です。
事実、Aさんについて対応を報告・相談した際の上の反応は以下のようなものでした:
- 「そんな馬鹿げたことはあるはずないだろう」と信じられない
- 報告者自身が狭量・過敏なのではないかと疑われる
- Aさんに対して何らかの偏見・執着を持っているのではないかと疑われる
(新参者を軽んじる、あるいは妬んでいる、等) - Aさん一人を受容できない組織は管理者の狭量と受け取られかねないとして、
問題を敢えて顕在化しないように(黙って耐えるように)指示される
こうした反応は、例えばイジメの兆候が検知された場合に誤った反応をしてしまうケース等にも通じるものがありますね。「想定していない問題」が「内部から発生する」ということに、人はなかなか反応できないものなのかもしれません。
チームというものは相互の信頼によって成り立つものですし、そう「信じたい」という無意識も働くものでしょう。
それ自体は通常時には有効なのですが、一旦その「善意」を逆手に取ろうとする人が現れた場合には、深刻なダメージを受けかねません。
そのことをしっかりと認識したうえで、もし万が一、悪意のあるメンバーをチーム内に抱えてしまった場合には、組織の健全性を取り戻すべく、フェアネスの意識を高くもって、意識的に「是々非々」を徹底する必要があります。
【終わりに】
これまで4回の連載を通じ、実際のPJ現場の例をご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?
PJ事例自体は、連載第1回でお伝えした通りの「ドタバタ奮闘記」で、必ずしも何らかの正解をご提示しているものではありませんが、PJチームを見渡した時の状況を「人材タイプ」やその関係性で整理すると、チームに何が起きているのか理解・説明しやすくなることがイメージしていただければ幸いです。
IY
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